アニメ『ケムリクサ』の考察をしていきます。
内容としては、裏設定とか、各要素のモチーフなどを考えることより、
物語をつぶさに観察して、世界やキャラの深みを掘り下げていくことに特化しています。
※筆者個人の考えに過ぎませんので、参考程度にお読み下さい。
※共感の他、間違いや別な意見などもあれば、
遠慮なくコメントして(本ページ下部から)頂ければ幸いです。
※最終話までの視聴を前提に書いています。ネタバレ必至です。
作品の公開順に追っています。
ここでは、第8話Bパートの後半(赤い根切断)について。
過去の記事はこちら。
第8話 Bパート 後半
※以降のセリフの引用(❝ ❞内)は、全て
『ケムリクサ』第8話(©ヤオヨロズケムリクサプロジェクト) を出典としている。
最初の作戦は、「道ごと崩す」
わかば「あれ?りんさん、あそこ…。」
りん「少し、崩れているな。」
りん「あの建造物も、赤霧で破壊が進んでいるようだな。注意しよう。」
わかば「いっそ、崩してみたら、あの根も動きませんかね。」
根が張っている道ごと崩す作戦を考えついたようだが、
映像からは、崩れている様子は見受けられない。
崩れているのは、赤霧に隠れて見えていない橋の下側のようである。
りんが「赤霧の中」と、はっきり発言している。
りん「じゃあ私がいく。赤霧の中だしな。」
これらのことから、
りんとわかばは、多少の赤霧があっても、その先が見えていることと、
りんは、見えなくなるほど全身赤霧に浸かろうとも平気、
ということがわかる。
後者はさすがに、りつに「危ない」と止められていたが、
これは、赤霧の中は、りんの単独行動を余儀なくするからであろう。
なにかあっても、誰も助けに行けないし…。
続・ムシたちの代弁
「ワカバ センチョウ
センチョウ タスカル ヤリタイ」
シロのモニター上の白字の言葉は、シロ以外のムシたちの代弁である、
と、前回の考察で述べた。
これを前提とすると、
この後、ムシたちが機能を停止するまでの間に表示されるのは、全て彼らの言葉となる。
「アカイネ セツダン タスカル?」
「センチョウ キョカ クダサイ」
「ダイジョブ サイゴマデ ヤリタイ」
「サイゴ」という言葉が、既に機能停止を覚悟しているムシたち自身の言葉だとすると、
意味合いが少し変わって聞こえてくる。
つまり、切断作業の「最後」ではなく、死に際を意味する「最期」。
合体時点で、既に本体の葉が残っていない描写があったことから見ても、
ムシたちは、自分たちの死期を早々に悟っていたようである。
ムシたちの合体
赤い根切断にあたって、全てのムシたちが合体し、変形した。
ロボットのような変形合体というより、
一度不定形となり、全員がゴチャまぜに組み直したようだ。
このときは、根を切断するのに適した形へと、再構築した。
各ムシの境界がわからないが、至るところに本体の葉が存在しているのが確認できる。
謎多き、ケムリクサロボ。
さらに謎なのが、本体の葉が、水を消耗しているらしいことである。
前回の考察でも述べたが、これについては考えてもわからない。
シロと違って、他のムシたちは水を消耗するのか…?
また、シロは合体せずとも、一人で巨大化することも可能。(12話)
そのあたりの差が、ヌシたる所以か。
りなは遠くが見えないが、それを補ってもらう必要はない?
りなは遠くがよく見えない、というのは、ここでも描写されている。
ムシたちの様子を、目を細めてなんとか把握しようとしていたり、
わかばたちの反応を見て、状況を判断している。
しかし、決して自分から「よく見えない」、「詳しく教えて」などとは頼むことはなく、
りんたちも、りなに状況を伝えようとはしていない。
かと言って、りなの視力を、りんたちが把握していないわけではない。
3話において、橋の下の赤霧が見えているわかばに対し、りんは特殊性を感じていたし、
「わかばは目が良いんだナ」と、りな自身が、皆の前で発言している。
ということは、りなは遠くを見ることは確かに苦手だが、
それをわざわざ他の者が補う必要はない、と考えているのだろう。
りなの長所は、複数人のりなによる、広い視界である。
これは、2話において、
『私だけでは目の届かない所を守ってくれる』と、
りんが発言していることからもわかる。
つまりこのときの状況に当てはめると、
遠くを見るのは、りん(とわかば)、
周囲を見ておくのは、りなたち、
と、役割分担がされていたため、
遠くの状況を、りなに逐一伝えるようなこともしなかったのだろう。
このときのりなたちは、それぞれ違う方向を見ているように、見えなくもない。
それでも一人、状況を確認したがっていたようだが、
これは知りたがりのりなじだろうか?
エネルギーの消耗に反応する、赤い根
ムシたちが接近しても反応しなかった赤い根だが、
切断を開始し、ケムリクサの出力を上げた(音が鳴った)ところで、
大きく動き出した。
この性質は、12話にて「強く使ったケムリクサから反応する」と、明言されるが、
ここの赤い根の行動は、そこに繋がる一つの伏線となる。
ところで、根の太さだが、切断開始時は、ムシたちの刃が届かないほど太かったが、
切断時には、刃と同じくらいの太さになっていた。
演出上の都合、といえばそれまでだが、
ムシたちを阻止しようと根を伸ばしたことで、太さを失ったのかもしれない。
駆けつけるりん
りんは、つい先ほどまで「構っていてもしかたない」と、ムシたちをないがしろにしていたのだが、
それも少し変化してきたようだ。
というのも、根を切断したムシたちを心配して駆け寄ったわかばに次いで、
二番目に到着しているのだから。
流れとしては当然なのかもしれないが、
本当にりんがムシたちをないがしろにしているのならば、
根が動いたことで周囲を警戒し、りつや電車の防衛を優先するはずである。
さらに、ムシたちの発言が気になり、わかばから聞き出したではないか。
りん「なんだ?」
わかば「あのこたち、赤虫になる前に、停止するって…。」
実はりんはこれまで、シロの発言には一切興味を示していなかった。(地図は別)
ここで自分からムシたちを気にしだしたのは、
りんにとって大きい変化と言えるかもしれない。
ここでは最終的に、
ムシたちの停止と、最愛の姉妹たちの最期を、
同等に比較して語るまでに至っている。
軽蔑する存在ならば、そんなことはできない。
少しは、シロたちのことを信用してきたのだろうか。
まあ、9話では、
「そいつ食べていいぞ」
と、りなに指示するシーンがありますけどね(笑)。
わかばの自覚。りんの自覚。
8話で最も重要とも言える、わかばが初めて涙を流すシーン。
わかば「センチョウ、生きがい、感謝…。
最期、好き、できて、感謝…。」
わかば「くっ…! 僕のせいだ…! 僕の… 指示で…!」
シロ「ナゼ ナク? ミンナ カンシャ」
自分が他人のために命を懸けることに躊躇はしないが、
他人が自分のために命を懸けることには、涙を流す。
わかばは、そういう人である。
自分の命を決して軽く考えているわけではないと思うが、
それと比べると、他人の命の方を圧倒的に重く考えている。
この点は、りんも共通している。
ゲストからレギュラーへと自覚
わかばは、りんたちに同行しながらも、
単なる「ゲスト」的な立場であると自覚していた。
それは、「姉妹を失うほど壮絶だった過去の旅のことを知らない」、
という引け目を感じていたことが大きいのだろう。
7話にて、りんを説得する際にも、
「僕が言っていいかわかりませんけど」と、前置きを入れたり、
度々「りんさんに守ってもらってばかり」と謙遜してもいたことからも、
このことがわかるだろう。
「ゲスト」であったわかばが、
りんたちの旅の一員(レギュラー)となったと自覚するきっかけが、
ここでの体験である。
わかば「りんさんたちの気持ち… 少し… わかりました…。」
「少し」というのが、控えめなわかばらしいが、
実際のところ、かなり深い部分で共感ができたはずである。
この「レギュラーの自覚」は、
直後に、わかばが先頭に進み、皆を先導した、という行動に表れている。
わかば「すみません…。 行きましょう…!」
全員で移動する中で、わかばが先頭を歩くのは、これが初めてである。
(見落としがあったら、ごめんなさい)
前に立ち、先導するのは、大抵りんの役目だ。
8話においては、シロが先頭を進み、それを信頼するわかばが次に続く、
ということはあったが、
基本的に、わかばは「付いていく」というスタンスだった。
それが、この8話のラストでは、「行きましょう」と皆を先導した。
旅の過酷さを真に実感したことで、わかばの意識が変わったのかもしれない。
守り、守られる自覚
りんも、このときのわかばの涙に共感できたからこそ、直後にわかばを慰めていた。
りん「私の姉も… 妹も… 終わりは笑っていた。
多分あれらも、終わる前にお前と会って、良かったんだ。」
ムシたちに涙を流すわかばに、りんは自分の姿を重ねている。
1話でりなこが死亡した際には、りんも泣いていた。
「良かったんだ」と言い切ってはいるが、これは自分自身にも言い聞かせているのだろう。
「悼み、泣く」という同じ経験をしているりんにとって、
悼む対象とは、自分にとって大切な存在、必ず守りたいと願う存在。
ここで、自分と同じく涙を流すわかばにとっての「悼む対象」に、
自分たちも含まれているのかを確認した。
りん「お前は…! 私達が死んでも泣くのか…?」
わかば「当たり前でしょうそんなの! 絶対そんなことには、させませんから!」
なぜこんなことを聞いたのか考えるに、
りんにとって、わかばの存在が姉妹と同じくらい大切な存在になりつつあったからだろう。
そして、完全に信頼を寄せられるか確認するために、この質問をした。
これに対するわかばの回答は、珍しく、声を荒げてのものだった。
りんがもし、「姉妹が死んだら泣く(悲しむ)のか?」と問われたなら、
おそらく、わかばと同様に声を荒げて返しただろう。
このわかばの力強い回答を受けて、りんは、
「自分が姉妹を想うのと同じくらい、わかばは自分たちのことを想ってくれている」、
とここではっきりと実感できたのだろう。
わかばの事を、姉妹と同等に大切な存在であると認識した。
でもそれは、わかば自身に直接的には言っていない。
りん「私も、これ以上誰も死なせたくない! そうさせない!
(…お前も含めてな。)」
最後の一言は、小声か心の声であり、わかばには聞こえていないようだ。
なんで直接伝えないのかって、そりゃあ、毒のせいでしょう。
こうして、双方から歩み寄る形で、わかばとりんの信頼関係は一層強まっていった。
次回、第9話 Aパート 前半!
今回は考察というより、内容の再確認みたいになってしまった?
もう少し賢いことが言えると良いのですが…。
次回! 九島到達!
ここからも引き続き、お付き合いいただけると、幸いである。
もしよければ、右のプロフィールや、記事下のフォローボタンを押してもらえると、タスカル。
筆者のやる気が上がり、更新頻度が早くなります。
コメント
最近ケムリクサを完走し、グッときた気持ちのままこちらの考察を拝見し、さらにキャラへの愛着が育ちました。ここまで全て読みました。この後の展開もかなり考察要素多くなるかと思いますが、楽しみに待ってます!
ありがとうございます。
完結から半年以上経っても終わってない考察サイトをお読み頂き、感謝ですw
『ケムリクサ』の評判は口コミでじわじわ広がっているのか、
「最近になって初めて視聴した」という方もよくいらっしゃるようですね。
気になったところや、ここ違うんじゃないか?と感じたところは、遠慮なくコメントして頂けると助かります。
よろしくお願いします。
お疲れさまです。更新ありがとうございます!
わかばの意識が、立ち位置が変わる回!
りんにとって「親密な他人」が「信頼の身内」になった瞬間!
ugさんの特に最後の確認の考察が心に染み入ります。
この辺りからTwitter上のどん兵衛天ぷらそばの消費が爆上がりしていましたね。w
個人的にはこの回は、りんとわかばの 他者に対する接し方の共通部分と相違部分を観た回だったと思いました。
◆共通部分:りんが最後に確認した 涙した理由。
◇「自分がうまく立ち回れず悔しい」「あなたが散って悲しい」「ありがとう」という気持ち。
◆相違部分:
◇わかば:姉妹たちととシロ達に分け隔てなく尊重し思いやりを持って接する。
◇りん:姉妹たちには優しく超甘いが、仲間と認めない他者は全て敵。逃げるか倒すか。
最後にりんは、自分が共感するわかばの「違う部分」を確認してそれを認め、ココロの壁(ATフィールド)を外して受入れた感じがしました。
りんたち姉妹はこの辺りかなりドライな決断を下せるマインドをしていますが、こういう判断って人間より野生の犬や猫に近い感じがします。
(ヒトガタなので社会生活を営む前の先史人類のような感じ?)
好きなものに夢中なところも相手の好みに無関心な所も本能を優先する描写ですし、監督は意図して演出してると思うのですが、いかがでしょうか。
共通部分と相違部分。
なるほどおもしろい見方です。
お互いすり合わせていきつつありますねえ。
8話ラスト、ムシたちが停止してから、すぐエンディングにいってしまうわけですが、
このときのりつやりなたちの反応も、すごく見てみたかった…。
それをやってしまうと、焦点がぼやけてしまいそうだし、やらなくて正解なんでしょうけど。
りんたちを、より本能的なキャラクターにすることは、
物語のテーマを明確にしてくれるので、
意図的であったと、私も思います。