劇場版「メイドインアビス 深き魂の黎明」を、映画館で観てきたので、
シーン毎に原作との内容比較しながら、その再現度の高さを確認してみた。
本記事は、
「映画は観たが原作を読んだことがない人」、
あるいは、
「原作は読んでいるが映画を観ていない人」、
に向けた内容となる。
※ ネタバレを多分に含むため、注意して欲しい。
※ そもそもメイドインアビスを知らない人は、↓の【ネタバレ無しレビュー】を読んでね。
シーン毎の原作との比較
まず始めに、確認。
TV版、あるいは総集編は、原作の1~4巻冒頭部分に該当する。
そして劇場版『深き魂の黎明』は、これに直接繋がるよう始まる。
即ち、TV版アニメの劇場版モノにありがちな、
「キャラ紹介や概要を交えた尺稼ぎ」とも思えるようなシーンは、一切無い。
「ちゃんとここまでの物語は見てきましたね?」と言わんばかりに、
なんの説明もなく、「深層四層 不屈の花園」に降り立ったところから始まる。
不屈の花園
「ライザのお気に入り」と言われる場所だけあって、
開けた視界一面にトコシエコウが広がる高原は、実に美しい。
劇場版ならではの上質な作画と色彩でこの光景が見れば、
リコのテンションの上がりようにも大いに納得してしまう。
ここの、3人それぞれの視点で見る「周囲の状況」がおもしろい。
ナナチ視点は、静止画だとわかりづらい「力場」の様子を見せてくれる。
レグ視点は、カメラのズーム機能のように視界を拡大をする描写があり、
このときのメカっぽさがたまらない。
さらにリコ視点は、クオンガタリの葉っぱの擬態を観察させてくれる。
色がつくと、芸術的なまでの擬態。
死体の目の奥にうごめく幼虫も、一切隠さずしっかり描写される。
虫がダメな人には、最悪な映像だろう。
その後、クオンガタリが活動期に入り、
花畑一帯を燃やし尽くすシーンまで、原作通りに進む。
無かったシーンは、「祈手(アンブラハンズ)」が「ペイジン」なる月笛と通信するところくらいか。
霜の稜線
雪国を思わせる真っ白な地形と、支え水が絶えず流れる青い背景のコントラストが、
幻想的すぎる。
原作のモノクロ絵でも美しい風景だったので、この再現度には大満足。
ちなみに、劇場版のサントラのジャケット絵は、ここの風景を使っている。
ここで食べたハマシラマは、色彩や動きが加わったことで、一層ゲテモノ感が増している。
どう見てもおいしそうではない。
ヌメリはなんか、黄緑色だし。
アビスの冒険の異常ぶりを示すのに、食事シーンは付き物。
カットされなくて良かった。
イドフロント
静止画だといまいちわかりにくかった「建物がゆっくり回ってる」感が、一発でわかる!
どことなく「遺跡」感のある建物だったが、回転とその音で、「基地」感が増した。
そして、基地の入口で、プルシュカ登場。
原作だと、いきなり上から目線で現れたプルシュカだったが、
後に判明するはずだった「望遠鏡で観察して待ち伏せしてた様子」が、ここに挿入されている。
どっちにしろこの後、緩みますけどね。
ボンドルド登場
ボンドルド登場シーンの威圧感、凄すぎた。
原作だと、闇が訪れたような1コマでしかないのだが、
劇場版ではここに30秒くらい使ってた気がする。
「因縁あるナナチ視点のボンドルド」ということになるのだろうか。
押しつぶされそうな重厚な空気。ラスボス感満点。
行動食4号
行動食4号を取り上げた時の音が印象的だった。こいつの硬さがわかる…!
カロリーメイトみたいなもんだと思ってたけど、それより全然硬そう。
壁だわこれ。
それから、リコがプルシュカに冒険譚を聞かせるシーンが、ここに軽く挿入される。
原作では、後のプルシュカの回想シーンで見ることになるのだが、
流れとしてここに挿入されるのは、むしろ自然だった。
孤独のリコと、五層の呪い
リコの一人になった時の孤独感が少し足りない気がした、
というのも、タメが足りないせいか。
ここは原作の方が、孤独の恐怖感をより感じた。(個人の感想です)
五層の上昇負荷のシーンも同様に、恐怖を煽るタメが少なかった印象。
これはこれで、矢継ぎ早に意味不明な現象に追われる怖さがあったが。
初見の人は、事態を飲み込む間もなく、次々に進んでしまったように感じたかもしれない。
プルシュカによる五層の呪いの説明、「気づかず柱にぶつかる例え話」も省かれる。
五層の呪いの怖さが、わかりやすく説明されてるシーンだけあって、省略されたのは残念。
初見の人たちは、理解できたのだろうか。
ナナチとボンドルドの会話
ナナチがボンドルドと会話・交渉をする場所は、
かつてナナチとミーティが、イドフロントに来て初めて立った場所…。
これは劇場版のオリジナルとなるが、なかなかにエモい。
囚われのレグ
腕の切断から失禁まで、原作以上に如実に描かれてしまっており、エグさUP。
度し難い…。
レグの悲鳴、息づかいも凄まじい。
原作では、言葉にもならない悲鳴であったが、まさにこれが再現できていた。
祈手がすっとろい事に疑問を抱くナナチの心の声は、カットされていたが…。
これは一応、精神隷属器(ゾアホリック)に繋がる伏線のはずである。
カットされても問題なさそうだが。
カッショウガシラのコロニー
祈手が捕食されるシーンまで、しっかり描かれる。
忠実に描かれすぎていて、初見の人には、
逆に何が起きていたか、よくわからなかったのではなかろうか。
(あんまりわかりたくはないので、多分それでいいのかもしれないが。)
ここの見せ方がおもしろい。ボンドルドを中心にカメラが回転するのだ。
これにより、カッショウガシラが暴れて動き回っている様と、
余裕の落ち着きを見せて静止しているボ卿が対照的に映っていた。
劇場版ではコロニーは洞窟?みたいになっていて、枢機の光で一掃するシーンが、よく見えない。
ここのボンドルドの強者感は、原作のほうが強く出ていると感じる。
ボンドルドと最初の激突
戦闘シーンは、やはりアニメだと特に映える。
作画、音、スピード感、声、アングル、劇伴…等々、どれを取っても文句なしのクオリティである。
ボンドルドが体を入れ替えるシーンは、
入れ替わった瞬間に新たに尻尾が生えてくるところが描かれていた。
劇場版オリジナルだが、原作よりわかりやすくなっていて、良い。
(どっちにしろ、レグのように「ふざけるな」と叫びたくなるシーンだが)
ボンドルドが改めて自己紹介をするシーンは、原作のほうが威圧感がある。
というのも、
劇場版ではプルシュカ視点で「パパ生きてて良かった」的な雰囲気が表れているため、
劇伴や演出も、なんだか穏やかで神々しい感じになっていた。(気がする)
視聴者の混乱をさらに加速させるため、あえてこうしたのかもしれない。
度し難い…。
プルシュカの回想、リコの夢
問題の「紅を付けたものは破棄」のシーンは、
色が付いたことで、より生々しいものになった…。
原作4巻はここで終わる。
プルシュカが回想する形で、話は過去に戻る。
先に挙げた、「五層の呪いの例え話」などは、やむなくカットされたっぽいのに、
「パパ棒」の話は無理やりにでも入れてきた模様。このエピソード要るのか…。
ちなみに、リコがドン引きしてる様子は描かれなかった。
そのままプルシュカの回想が、リコの夢と混線する形で、回想シーンから戻ってくる。
このあたりの話の流れも、全て原作に忠実。
リコの「いっちゃダメ」の絶叫が壮絶すぎる。これも原作に忠実と言えよう。
第2ラウンド、作戦会議
この後、リコが持ち前の知識をフル稼働させる見せ場となるのだが、
暗記した遺物目録を列挙すること無く、わりとあっさり正解を導き出してしまうので、
少し扱いが軽くなっている気がした。
原作だと、様々な候補に考えを巡らせている。
涙と鼻水とゲロにまみれながらも、確信ある答えにたどり着くリコが、頼もしい。
こういう見せ場がないと、リコはただ泣いてるだけの印象を与えてしまいそう。
再潜入、イドフロント
祈手にならなかった「洗脳した使い捨て」に関するシーンは、丸ごとカット。
プルシュカ手作りの黒笛を見たレグが、プルシュカを憐れみ、ボンドルドに怒るシーンも、
合わせてカットとなる。
冒頭(不屈の花園)で、「リコとナナチのためだけに戦う」と決意したはずのレグの心境に、
変化が起きたことがわかる、重要なシーンではある。
これは原作でしか見ることができない。
メイニャの案内した方角で、ナナチがプルシュカの現状を何となく察してしまったシーン。
原作の方が、少しわかりやすいか。(個人の見解と感想です)
第2ラウンド、激突
記憶を喪失したレグは、原作通り「作画が違う」風に表現されている。
ここ、よくぞ再現してくれました。
異質感がたまりません。
先の戦闘と同じく、原作に忠実で、息を呑むシーンの連続。
ギャングウェイ弾くときのレグの腕の動きも、しっかり描かれています。
なるほど、そうやって弾いていたのか…。
終始落ち着いた様子のボンドルドが、ナナチの身の危険にだけ焦るところも、
絶妙な声色の変化で再現されている。 素晴らしい…。
最後の激突
六層に落とされてから、五層まで登ってくる間の、最後の激突。
アクションシーンの最大の見所。
ボンドルドとレグの、遺物同士の独特な戦闘。
息をもつかせぬ攻防による疾走感が、見事に表現されている。
盛り上がりもピークに。
激動の戦闘シーンとは反対に、時間が止まってしまったかのようなリコの絶望シーンは、
静止画の原作のほうが、強く感じられる気がした。
無音と無言で涙を流すリコは、見ていて辛すぎる。
再びプルシュカの回想
前述の通り、「プルシュカの手作り黒笛」に関するシーンは丸ごとカットされているので、
ここの回想シーンでも出てこない。
プルシュカの心優しい事がわかるこのシーンは、原作でしか見られない。
ここからあとはラストまで、忠実すぎるほどに忠実に、原作通りに話が進む。
ちょうど原作5巻の終わりで、劇場版は幕を閉じる。
総括
比較的重要なシーンでカットされたのは、「プルシュカ手作り黒笛」に関するシーンだけで、
それ以外は、話の流れも含め、ほぼ原作に忠実に再現されていた。
またそのクオリティは、一切の妥協も感じないほど、並大抵のものではなかった。
アニメ化として、この上ないほどの完成度を見せてくれた。
仮にこれをTV版として地上波で続けていようものなら、
自粛の嵐で、低い再現度となってしまっていたことだろう。
当然、原作に忠実であるほど、辛いものを見せられることになるが、
そこに一切妥協せず描ききった事で、
「辛い中で輝く」という本作のテーマそのものを体現するかのごとく、
本作はまさに「闇の中で輝く作品」となったと言えよう。
…これは褒め言葉としてふさわしいのだろうか?
とにかく次なる続編も、この制作方針を貫いて欲しい。
再現度が高すぎる、今回の劇場版。
原作ファンにも、アニメオンリーのファンにも、迷わずオススメできる傑作です。
まだ観ていない人は、是非!
原作を読んでいない人は、原作を是非!
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