合気道ってなんでこんなに知名度低いんだ!
前置き
突然ですが、私は合気道の有段者です。
「合気会」という、合気道内で最大の組織が公認する道場に、所属しています。
そんな私が常々思う。
合気道の知名度って低い…。
特に、同じく日本の武道である、「柔道」や「剣道」、「空手道」などに比べると、
実際に見たこと無い、という人は圧倒的に多いでしょう。
そして誇大なイメージだけがひとり歩きする…。
「なんか相手の力使って投げるやつでしょ。」
「おじいちゃんがちょっと手を動かしただけで、人をふっとばすやつ。」
「手からなんか出すやつ?」
知らない人からすると、だいたいこんなイメージ。
(手からなんか出すやつは、たぶんそれ「気功」です。「なんか」は失礼。)
Youtubeを見てわかった気になるのはヤメテ!
とにかく知名度は低い。
そして、知名度を上げるために有効的なものの一つが、
「マスメディア」である。
あるスポーツ漫画がジャンプで連載されれば、学校でその部活が流行るように!
あるスポーツ映画が大ヒットすれば、そのスポーツ観戦者が増加するように!
漫画、アニメ、映画、ゲーム等々、そうした人気媒体で「合気道」を扱ってくれれば、
知名度が大きく向上するはずである。
残念ながら、合気道をメインテーマとした作品は少ないわけだが、
合気道経験者である私が、
漫画・アニメ・ゲームなどで「合気道」あるいは「合気道に通ずるもの」
を 感じた作品を紹介することで、
合気道についてちょっと知ってもらいたい、
というのが、この記事の狙いだ。
題して、「○○に見る合気道」。
(シリーズ化します)
前置きが長くなったが、早速
「漫画に見る合気道」として、記念すべき最初の一作目を紹介しよう。
傑作「合気道」漫画 『EVIL HEART(イビルハート)』
友達も敵も 自分がつくるんだよ
素敵だろ? 君の国の武道
【出典】『EVIL HEART』1巻 ©武富智/集英社
第一回ということで、知る人ぞ知る、合気道漫画の傑作を紹介しよう。
作者:武富智による、『EVIL HEART(イビルハート)』(全6巻)!
「合気道」をメインに扱った漫画なら、「バトル漫画」だと思うだろう。
だがこの漫画は違うのだ!
「なぜ?」 と思うかもしれないが、
そもそも「合気道」には、試合が無いのである。
※ それこそ「なぜ?」と思うかもしれないが、今は漫画の紹介に戻ろう。
「迫力のバトル」ではなく、「心の成長」を描く
この作品は、いわゆる「バトルシーン」や、「戦う力の向上」に重きを置いたわけではなく、
登場人物たちの「心の成長」をテーマに描かれている。
主人公は、幼い頃から家庭内暴力を経験し、心に傷を追った少年「梅夫(ウメ)」。
小柄なウメは、「暴力に屈しない強い力」を求めていた。
そんなとき、中学校の体育館で行われていた合気道教室を見かける。
体格差をものともせず相手を投げ飛ばす姿を見て、惹かれていく。

【出典】『EVIL HEART』1巻 ©武富智/集英社
やがて、合気道を教える「ダニエル先生」に出会い、意気込むウメ。
『ケンカが強くなりたい』、その一点張り。
そんなウメを、ダニエル先生は諭す。
『ケンカが強くなってどうするのか?』
『争うことを、合気道では教えられない。』
『けど“強くなること”は、合気道で教えられる。』
そして、
『合気道で目指すのは、「争わないこと」』だと。

【出典】『EVIL HEART』1巻 ©武富智/集英社

【出典】『EVIL HEART』1巻 ©武富智/集英社
争わなければ、負けることはない。 相手と調和するために強くなる。
「試合がない」「勝敗をつけない」という合気道の原則も、
こうした理念が元になっているのです。
がむしゃらに、ケンカで強くなることを求めていたウメも、
合気道に触れて、少しずつ考えを改めようとしていく。
しかし!
今日思いついて、明日から生まれ変わるなんて、
そう簡単にはいかず…
ウメを取り巻く環境は既に荒れ果てており、考えを改めようにも、様々な障害にぶつかる。
目をつけてくる不良グループ、遠ざけようとする理解のない大人たち、何の脈絡も無い暴力、
そして最大の要因である、家庭内暴力をふるう兄の存在。

【出典】『EVIL HEART』1巻 ©武富智/集英社
その度に、「争わないなんてやっぱ無理」と挫折してしまう。
「合気道なんかで変えられるわけがない」、と。

【出典】『EVIL HEART』2巻 ©武富智/集英社
それでも少しずつ、
合気道と、それをきっかけに出会う人たちのおかげもあって、
少しずつだが、ウメ自身も、周りの人たちも、変化していく。

【出典】『EVIL HEART』2巻 ©武富智/集英社
合気道を始めたばかりのウメだけではなく、
ウメに合気道を教えるダニエル先生や、
さらに他の周りの人間たち、それぞれが抱えていることにも、作中では向き合っていく。
この作品は、そんな人々の心の成長を、実に緻密に描いている。
だからこそ、
合気道を知らない人にも、オススメできる。
そして、合気道を知っている経験者なら、もっとオススメできてしまうのも、この作品の魅力だ。
「合気道あるある」に溢れた描写にニヤリ
「心の成長」がメインテーマ、といっても、合気道の描写がおざなりなわけでは、決して無い。
合気道を経験したことある人ならわかる”あれやこれや”が、これまた丁寧に描かれている。
なんと作者の武富智氏は、連載の企画と同時に、合気道に入門しており、
そこでの実体験を元にしているからこそ、
決して誇大にならず、より正確に描けているのだろう。
技の一つ一つも、教科書のように基本に忠実に表現されており、
初めて経験した人の”あるあるネタ”も詰まっている。

【出典】『EVIL HEART』2巻 ©武富智/集英社
もちろんそれは「絵」だけにあらず、
合気道をやってるとほぼ必ずぶつかる悩みや問題も、しっかり取り上げてくれる。

【出典】『EVIL HEART』2巻 ©武富智/集英社
「相手が自分に合わせて動く」って、そんなんで強くなるわけない
と思うじゃん!?
うわあ~あるあるあるある…
少なくとも、合気道経験者の私には、共感できるシーンがありすぎる。
合気道を始めた頃に読んだときは、ウメの気持ちに。
でも今は、ダニエル先生の言っていることがよくわかる。
「自分の積み重ねた経験によって、内容の深みが増す」という作品は、
とってもいい作品だと思いますね。
チープな表現しかできず申し訳ないが…。
他にも、
達人の手を、初めて掴んだ瞬間の、
「えっ?」
ってなる感じも、出てきます。

【出典】『EVIL HEART』3巻 ©武富智/集英社
大げさだと思うじゃないですか。
でも実のところ、全然大げさじゃない。自分もこう思ったから。
「なんだこれ? 人間なのか?」
「根を張った木でも掴まされたのか自分は。」
と。
本当に強い人って、素人でも触れるだけでわかってしまうんですよ。
こうした「合気道あるある」が、溢れんばかり。
しかし決して大げさではなく、
そこにはリアリティがある。
だから合気道経験者には、もっとオススメできる、
ということだ。
経験者にも、未経験者にも、オススメ!

【出典】『EVIL HEART』3巻 ©武富智/集英社
ここまで読んでくれた方は、「合気道に興味がある」方なのだろう。経験者、未経験者問わず。
あなたが経験者なら、
いいから読んでおけ!
と、アツくオススメする。
昔は入手困難なときもあったが、今はKindleなどの電子書籍でも読める。
注意してほしいのが、
巻数は、1、2、3巻と続き、その後が「氣編」、そしてさらに「完結編」の上、下と続いて、
全6巻になっていて、ちょっと特殊なところだ。
そしてあなたが未経験者なら
「ふーん、合気道って、こんな感じなんだ。」っと、
ちょっとわかってくれたとしたら、嬉しい。
そしてまだ興味が続いているなら、試し読みもあるので、読んでみるのも良いだろう。

さらに興味がわいたなら、やっぱり実際の体験に勝るものはないので、
近くで合気道をやってる場所を探してみるといいと思う。
意外と日本のそこらじゅうでやってます。
老若男女だれでもできます。

【出典】『EVIL HEART』3巻 ©武富智/集英社
(実際に、非力な女性も多いし、定年後に始める方だっています。)
基本に忠実な道場なら、ケガを絶対しないように優しく教えてくれるはず、です。
この記事が、そのきっかけの一つになることを願って、
『○○に見る合気道』第一回は、ここで終わる。
コメント
管理人様、初めまして。
「EVIL HEART」は当時、高校生だった時にリアルタイムで読んでいました。
当時は、ヤンジャンの連載途中で打ち切りになったのが残念でした(鶴が暴漢に襲われていたのを梅とおじいちゃんが助けに行って、その後、三巻の最終話にあるように梅が「知りたいことが山ほどある」と物語がこれからというところで打ち切りになったので、続きがすごく気になる作品でした。同時期には同じ雑誌で「夜王」や「おくさまは女子高生」など、お色気的な作品がたくさんあったので、そうした意味ではすごく異色な作品だったように感じていました。どちらかというと、少年漫画のような梅たち子供たちの純粋さと、ダニエルと真知子の悩みを描いた大人向けの人間ドラマが合わさったような、すごく興味を惹かれる漫画でした)。
私は部活で柔道や日拳をかじった程度なので、合気道は門外漢なのですが、「EVIL HEART」は今でもすごく面白い作品ですね。もしこういう部活があれば入ってみたい、と当時思っていました。
一巻のダニエルと梅のやり取り(梅がダニエルに何度向かって行ってもかなわないけれど、「敵も味方も自分が作る」、「魚心あれば水心」と穏やかに教わるところ)に、合気道の奥深さをすごく感じました(なんだか、偉そうなことを書いて申し訳ございません。また、日本拳法の形にも合気道のように相手を制する技があるので、流派に関わらず、武道はとても奥深いものですね)。
それから、海外では「satori」という合気道漫画もあるようですが、こちらは「EVIL HEART」とは正反対に、一見した感じバトル漫画のようです。フランス人の漫画家の方が描いているようです。
とにもかくにも、人間ドラマとしてみても、「EVIL HEART」は何度でも読みたくなる作品ですね。最終巻の「大人になった梅たち」のその後も見てみたい作品でした。
はじめまして。コメントありがとうございます。
素晴らしい! リアルタイムで読んでいたとは。
おもしろいのに、めちゃくちゃいいところで打ち切りなったらしいですね。
なるほど、掲載誌の中で、異色だったわけですか。
高校の部活で、合気道を取り入れているところはほぼ無いようですね。 大学からがほとんどのようです。
しかし!興味があるなら、今からでも是非始めてみて欲しいです!
武道の奥深さを既に感じているのなら、なおさらオススメです!
本当に、やればやるほど深い…! やればやるほどおもしろい!
私の所属する部でも、60歳から合気道を始めて、もうそろそろ初段になれる、という方もいらっしゃいます。
何かを始めるのに、遅すぎる、ということは、決してございません。
合気道を体験してみると、『EVIL HEART』も、さらにおもしろくなりますよ。これは保証します(笑)。
「satori」という合気道漫画があるのですね。初めて知りました。
フランス語は全然読めないのですが、これを機に学びながら読んでみようと思います。
『EVIL HEART』を取り上げてくれているところがあって嬉しい!
合気道の知名度の低さに伴ってなのか…
この作品も知名度低いんですよ…(涙
でも、今でもこの作品は秀逸だったと思う。
結局読者が求めるのはバトルなんですよね。
武道であれば試合は出来ないなんて一般の人はわかりませんもんね。
この作品が埋もれてしまうのは悲しいので…
ネットカフェの蔵書リクエストしたんですが…
断られました…(涙